見た時の印象、誰からか聞いていた噂、あるいは病気や障害、そういった情報は、目の前の人を理解する情報の一部である一方で、目を曇らせてしまうフィルターになることも多くあります。
例えば、知的障害という言葉をひとつ聞いただけで、その方との間に壁ができてしまうこともあります。知らない、ということは不安を生む一因ですので、その不安を避けることとして距離を置くこともあるでしょう。
実際に就労の場面でも、知的障害や発達障害のような位置づけで周囲が定型として理解することで、その方の力が発揮できなくなるようなことが多くあります。本来であれば、相手のことを知ることから、どうコミュニケーションをとっていくか、どんな仕事で力を発揮できるのかと考えればよいのですが、事前情報の先入観は選択肢を減らす方向にもなってしまいます。
ある知的障害の方とお会いした時にあったことですが、その方は職場でのストレスが非常に高くなっている方でした。実際にお会いしてみると、会話力は非常に高く、過去の職歴からもどの業務が得意なのかはわかりやすい方でもありました。自分のこともしっかり理解していて、人格者だと感じるほどの方です。しかし、職場では知的障害という情報が先行してしまい、出来ること出来ないことを決め打ちしてしまっているため、周囲の距離感も遠く、その方の力が発揮できないような状態でした。
また、他の方では、対人関係のトラブルがあったときに、そのショックを大きく受けすぎて前に進めなくなってしまう方でした。その度に仕事を辞めることになり、普通に仕事ができるようになりたい、という苦しみの中で動けなくなっていた方でした。その方の場合も、よく状況を聞いていくと、これまでどんな工夫をして頑張ってきたのか、何が上手くいっていて、何が阻害しているのかが見えてきます。
こういった方と話をさせていただくと、聞いて待つことだけではなく、特に働くという観点においては、より積極的に影響を与えていくことも大切になっていく、と感じています。
前者の方であれば、周囲への働きかけと職場の環境調整、後者の方であれば、どんな仕事をどんな条件で探していけばよいのか、そういった部分をより具体的に伝えていくことが今後の生きていく上での大きな力になっていくことになります。
自分でなんとかしなくては、そう思う方ほど、方向さえあってしまえば、大きな変化に繋がってくる傾向があります。たとえば、後者の方であれば、方向性を具体化する対話をしたことで、わずか二カ月で、普通に仕事ができるようになった、ほんの少し自信が出てきた、と話してくれる状況まで努力されました。
カウンセリングという場だからこそ、こうするべきという枠にとらわれず、背中を押すこと、組織に踏み込んでいくこと、それもひとつの大切なアプローチだと考えています。